現代労働組合研究会は、日本国憲法を遵守し、次世代のための労働運動のルネッサンスをめざします。
書評・論点
▽追加2012.07.07 編集子自身が単行本で労働問題や労働組合について、かかわったのはすでに20年も前のこと。 しかし2011年に入って『今崎暁巳さんと私』(ドキュメント作家・今崎暁巳さんの追悼文集)と『回想の川﨑忠文』(元労働旬報社編集部・中央大学ほか講師・法政大学大原社会問題研究所嘱託研究員など)の編集・DTP作業に加わり、労働問題研究者・労働運動家と十数年ぶりの再会を果たした。 その間に、現在の労働組合・ユニオンについて、“さまざまの憂い”の声が、こんなに広がっているのかという思いが、私の中に生まれてきた。 かの昔、私自身は「日本国憲法に基づく労働組合選択権は人間の基本的権利である」という認識があった。しかしその当時は、会社内外の人たちの間では、「タブー」に近い認識だった。 それから20年(いや30年か)、木下さんの本をめぐって、正当な議論が起こっていることを知った。 さらにその当時から人文書・社会科学書、そのなかでの労働関係書(学生向けの労働問題書はもちろん)は目覆うばかりの出版状況であった。とにかく企業サイド(経営)からみると、そこにはマーケットがないという認識が強かった。 『今崎暁巳さんと私』(PDF版)の折、インターネット上で出会った石井さんたちの本を「ある編集者のブログ」で紹介したら、多くの反応があった。いまでも「労働問題を学びたい」と思っている人が少なからずいることも分かった。 「非正規労働者4割時代」といわれている現在、ただ採算ベースに乗るだけの部数が可能かどうか、不明だが。 その意味で、以下のような「インターネット上のBOOK・書評の論点」を出しておくことも大事な作業ではないかと思った。 ▽追加2024.11.07 ◆『ルポ 低賃金』(東海林智著、地平社、2024年4月23日発売) 本書では、闘う労働組合の道を、よくわかるプロセスで提起をしている。これも共鳴する。 本の扉には、以下のように表記されている。 >本書は、1995年の「新時代の『日本的経常』」を起点に急増した非正規労働者、そして結果として増大した低賃金で働く人々の現場を歩いたルポルタージュだ。 昔ながらの工場労働者もいれば、漂泊を余儀なくされる若者たちもいる。 そして、シングルマザーや農民、個人請負の宅配ドライバー……。働く人々の現場から、この安い国ニッポンのありように迫っていく。(本書「序章」より) 発足時(1989年)の連合、全労連、全労協の組織加盟人員の減少だけが問題ではなく、新しい労働者の誕生を祝いあう関係が、現在では成立していない時代なのだ。 1960年代末に労働現場に歩みを入れ日本型組合活動家と呼ばれた各地のメンバーは、企業別組合であっても、日常的に接した日教組・自治労、全日自労、地区労・県評などの地域の組合や国労・全逓・全電通などの3公社5現業、全国金属・全国一般・全自運・全自交などの闘う労働組合、新聞労連・民放労連・出版労連(当時は出版労協)、全印総連などのマスコミ関連労組を含めて、春闘を一緒にたたかった総評・中立労連があり、1970年代の国民春闘、スト権ストの時代に向かっていた時代とは違う。 それを前提に考えて、今、何から「塊(かい)を進めるか」をルポルタージュから提起している。 本書の目次を以下に添付した(継続して作業中)が、よくわかる提起で、共鳴する。 「闇バイト」→「漂流」→「61年ぶりのストライキ」→「非正規春闘」→「声を上げ、時給アップを獲得」→「非正規公務員」など。 さて、非正規労働者2000万人の中からどう出てくるか。さらに正規労働者から社会連帯労働者が生まれてこないのか。 本書を読んで、若い世代が、まず自ら考えて、共鳴できるか、ご判断を。 ◆著者:1964年、山形県生まれ。現在、毎日新聞社編集局社会部記者。一貫して労働と貧困・格差の現場を取材している。元新聞労連委員長、元MIC(日本マスコミ情報文化労組会議)議長。2008年12月31日から2009年1月5日まで開設された年越し派遣村の実行委貞を務めた。 著書に『15歳からの労働組合入門』(毎日新聞社、2013年)、『貧困の現場』同、2008年)など。新聞報道で反貧困ャーナリズム賞、著作で日本労働ペンクラブ賞などを受賞。 ▽追加2021.07.2 ◆書評:大内 裕和、『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし』 『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし』(後藤道夫、中澤秀一、木下武男、今野晴貴、福祉国家構想研究会編、大月書店、2018年10月15日) ▽追加2021.06.16 ◆書評:梁 英聖『闘わなければ社会は壊れる』 待望の新刊、藤田孝典・今野晴貴編著『闘わなければ社会は壊れる―〈対決と創造〉の労働・福祉運動論』(岩波)について――「梁 英聖さんのnoteのページ」(2019/06/23 19:40)。 闘わなければ社会は壊れる - 岩波書店 なぜ運動が必要か.いかにして勝ち取るべきか.最前線から提起する,人々を救い社会を変える方法. www.iwanami.co.jp この本は極めて重要な問題提起をしています。そのことは編者両名による「はじめに」の次の書き出しを読めばはっきりするでしょう。 ぜひ次の書き出しだけでも読んでほしいです(「はじめに」だけ無料で公開されています)。 近年、日本では「対立」や「対決」を避ける世の中の風潮がある。社会運動による要求行動や、労使紛争は社会・労働問題を解決しない、あるいは問題を複雑にする「厄介者」のように扱われがちである。何かの不正を批判したり、具体的な権利要求をしようものならば、「エビデンスはあるのか」、「全体の調整を考えていない」、「社会に分断を招く」などとの非難にさらされる。 今日、社会問題は、あまりにも政治家やエリートを中心とした「調整」や「政策」によって、社会の混乱を避けながら巧みに解決されるべきものであるかのように語られている。調整や政治に過度に期待する風潮からは、カリスマ的な指導者を待望する心理も透けて見える。こうした風潮は、市民・労働者を萎縮させ、要求すること、権利を主張することをさらに困難にしている。 また、社会運動の側には、自らを「手続き」に従う無害で従順な主体であるとアピールする文化が根付いてきた。曰く、「企業や行政と敵対し、権利を主張するような運動はやりすぎだ」、「選挙や法律で定められた手続きに従うことが社会運動だ」、「誰も敵にしないように、わかり合っていくことが社会運動だ」。常套句は「言いたいことはわかるけど、やり方が良くない」というもの。 「言いたいことはわかるけど、やり方が良くない」という常套句。一見するとより良い「やり方」を追求すべきだという良いアドバイスに見えるけれども、実際の内容は差別やハラスメント加害者、企業や政府といった強者との対立・対決を回避しないと誰もついてこないよというメッセージです。 私も若い頃から幾度となく言われ続けてきましたが、この対決を避けようというメッセージは意外に強力です。学生など若い世代のアクティビストが頑張って社会運動に参加しはじめた途端、大学教員や識者や旧世代の市民運動家からいろんな形で投げかけられ、じつは上の世代に対抗的な若い世代による新しい運動の芽を摘む「おせっかい」といえましょう。 書き出しから挑発的な本ですが、では、どんな問いを立てているのでしょうか? 編者たちは問いかけます。 しかし、そのような現実、具体的な職場や市民生活における対立と対決を避けて、社会を変えていくことが果たしてできるのだろうか。 対決と対立を避けて、社会を変えていくことができるのか――。 根源的な問いです。 もしかしたら読者のなかには、「とはいっても、みんなに嫌われる運動では結果も出せない」とか「政治家や官僚にある程度受け入れられる対案を出さないと世の中は変わらないだろ」とか疑問に思う方もいるかもしれません。 当然の疑問です。編者の回答はどうでしょうか。 どんなに「穏当」で、「妥協的」で「害がなく」、「合理的」な政策を知識人がアピールし、社会運動が無垢な「助け合い」を叫んでも、現に世論は後退し続け、求める政策は一蹴されている。だからこそ、ますます「もっと穏当な主張でなければ対立を避けられない」という意見が強まっていく。 このように、要求や対立を避ける政策論議や社会運動は、現実への批判意識を後退させ、議論を常に「今よりも妥協的」な水準へと引き下げていく。その積み重ねの結果が、今日の閉塞状況に他ならない。 ここ10数年の日本の歴史をみれば、欧米に比べてはるかに対決を回避した日本の運動は、自分たちが掲げる政策も実現できていない。それだけでなく「議論を常に「今よりも妥協的」な水準へと引き下げ」てきた。 説得的だと思います。 「じゃあ、対決すればいいのか」といえば、そうではありません。 とはいえ、もちろん、やぶからぼうに「対決」や「対立」をあおり立てれば良いというわけではない。必要であるのは、制度・政策論からは導き出すことができない、福祉国家型の社会を実現するための「実践論」なのである。 本書は「福祉国家型の社会を実現するための「実践論」」というわけです。 本書はこのような問題意識から、福祉国家型の社会を実現するために、日本社会の現状、福祉実践についての理論、そしてこれからのあるべき社会運動について考えた一冊である。この巨大な課題に対し、本書は一つの試論に過ぎない。しかし、どのような社会運動が必要であるのか、いま、まさに考え始めることは、重大な意義を持つものと考える。 私はこういう本を待っていました。日本は運動後進国なので、欧米(やブラジル、南アフリカ、韓国のような)運動先進国の常識が全く共有されていないからです。運動先進国の常識を前提として、日本で新しい福祉国家をどのようにつくりあげていくかという実践の書だろうと大いに期待しています。 入手し、読んだ章から少しずつ批評していきたいと思います。 早く読みたいのですがしかし…。アマゾンから買いたくはないのですが…。 書店さんは、こういう重要な本がすぐ入手できるよう、工夫していただけますと幸いです。 (6月26日夜追記:Honya Clubさんもオンライン注文できるようになったようです。一橋大学はじめ大学生協で注文する方はぜひ!) 本書の目次は以下の通り。 はじめに 今野晴貴・藤田孝典 第一部 福祉運動の実践をどう変革するか? 1 みんなが幸せになるためのソーシャルアクション――福祉主体の連帯と再編を求めて ……………藤田孝典 2 ソーシャルビジネスは反貧困運動のオルタナティブか?――新しい反貧困運動構築のための試論 ……………渡辺寛人 3 不可能な努力の押しつけと闘う――個人別生活保障の創造へ …………………後藤道夫 第二部 「新しい労働運動」の構想 4 新しい労働運動が,社会を守り,社会を変える ……………今野晴貴 5 年功賃金から職種別賃金・最賃制システムへの転換――新しい賃金運動をめざして ……………木下武男 第三部 ポスト資本主義の社会運動論 6 経済成長システムの停滞と転換――ポスト資本主義に向けて ……………宮田惟史 7 福祉国家論の意義と限界――七〇年代西独「国家導出論争」を手がかりにして ……………佐々木隆治 おわりに 今野晴貴・藤田孝典 執筆陣も目次も充実した非常に重要な本だと思います。
▽追加2021.06.16 ◆「はじめに」(PDF版)だけ無料で公開されています
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(小野寺忠昭・小畑精武・平山昇共同編集 社会評論社 2019年5月、2500円+税)
「次世代へ 一時代を切り拓いた運動証言」(元東京都労働委員会労働者委員 水谷 研次、「現代の理論」20号)
http://gendainoriron.jp/vol.20/review/mizutani.php
(北健一著 旬報社 1,000円+税)
http://hatarakikata.net/modules/morioka/details.php?bid=356&cid=1
森岡孝二の連続エッセイ - 第332回 書評『エコノミスト』2017年2月28日号
――NPO法人 働き方ASU―NET、労働者の働き方の改善、貧困・格差の是正に寄与します、 2017/9/2 22:19 。
出版社:旬報社 2017年9月2日 定価 本体1,000円+税
https://www.facebook.com/kenichi.kita.18/posts/1752809091456644
(伍賀一道・脇田滋・森﨑巌 編著 旬報社 1600円)
安倍「労働政策」に胸のすく反論
――評者=渡辺照子。レイバーネット、「週刊本の発見}第17回、2017/8/10。
――[評者]高橋伸彰(立命館大学教授)
http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2011071703980.html
――化学産業複数組合連絡会議30年の軌跡
http://www.atworx.co.jp/works/pub/60.html
▽twitter発信(2014年11月13日)
(「コモンズ」、2015.6.10-7.10号)
http://www.labornetjp.org/news/2015/1437831199201staff01
(『労働情報』2014年11月25日号、世界書院、2014年10月)
https://twitter.com/nagasakihiroshi
(「朝日新聞関西版」20154月21日、堀之内出版 、2014年12月25日)
坂倉昇平
(御茶の水書房,2014年4月、5,000円+税)、大原社会問題研究所雑誌、№677/2015年3月、評者:五十嵐仁
(旬報社、2013年12月25日)、大原社会問題研究所雑誌 №674/2014年12月、評者:下山房雄
現場の攻防から生まれた書~石川源嗣著『労働組合で社会を変える』を読んで
レイバーネット掲載 2014/10/22
http://www.jca.apc.org/j-union/center/kanso.htmより転載。
厳しい現場を踏んできた人の手になる労働組合論は、やはりおもしろい。ページを開くと、ぐいぐい引き込まれてしまいました。東京東部労組・石川源嗣さんの『労働組合で社会を変える』(世界書院)のことです。
本書の魅力は、なんといっても、石川さんが仲間たちと歩んできた波乱万丈の経験、現場の攻防やその渦中の労働者の想いの活写にあります。
たとえば産廃運送会社での組合誕生の瞬間。庸車と呼ばれることもある、車持ち込みの請負的関係で働いていた運転手を社員にするという。みんな喜んでいたら、実は1年間の有期雇用でした。更新期限が近づくと、会社は言います。更新してほしければ、労働条件を下げる----。
有期雇用の更新時に「労働条件の不利益変更」を持ち出し、嫌なら更新しないぞと脅かす。労働法の教科書では「変更解約告知の問題」として説かれ、裁 判例の立場も分かれる難しい問題ですが、不安を抱えて集まった60人を前に、石川さんは組合結成を訴えかけます。「その時は、120個を超える目玉でみん なの視線が僕に突き刺さってくるんですよ。チリチリするような」
東部労組ならではの「その後」は本書を読んでほしいのですが、石川さんたちの運動を貫く代行主義批判とか、「度胸」「人情」「腕づく」が、「力を忘れた労働運動」への厳しい指摘と併せ、すっと理解できます。
もっとも、石川さんのいわれる「階級観点」や連合評価については、私は違う意見(というよりスタンス?)を持っています。経営者の攻撃に勝つための 理論武装の「核心問題が、労働者と資本家の利害は対立している、資本家に幻想を持つな、階級闘争で解決するという階級観点にある」という枠組みでこんにち の労働組合運動を位置づけるのは、無理があると思うからです。労働条件の労使対等決定とディーセント・ワークは、階級闘争モデルに立たなくてもめざせるの ではないでしょうか。
他方、本書のメッセージで特に考えさせられ、共感したのが、職場闘争の再評価です。産別や個人加盟を重視する論者の一部には職場を軽視する傾向があ り、その方が先進的なようなイメージもあります。しかし石川さんは、東部労組の経験に加え、ドイツ産別労組についての論文など最新の研究成果とも対話しな がら、「職場闘争の新しいとらえかえしが必要」と主張します。
「カギはやはり地域合同労組・ユニオンの強化にあると思います。そしてそのユニオンの強化の内実は、ユニオンを構成する最も基礎組織である職場支部(労働組合)の拡大強化に行き着きます」
企業主義を警戒するあまり、企業内の組織化をあきらめるのは本末転倒ではないのか。いろいろ異論もある論点ですが、労働条件が決まる基礎的な場で労働者が手をつなぐことの大切さが腑に落ちます。
巻末に収録したインタビューが伝える、一人の青年が工場に入ってフライス工になり、労働者の信頼をつかんでいくプロセスも感動的です。たとえば、江 東区内の工場で若き日の石川さんが最初に組合結成に参加し「丸裸で決起したので、いいようにやられてしま」った悔しい経験は、東部労組による組合(職場支 部)結成に活かされているのでしょう。
『労働情報』の前田裕晤代表は、本書の帯に「労働運動関係者には必読書」と書いていますが、たしかにそう思います。この厳しい時代。心に太陽を失わず、労働運動の現場で頑張っている多くの人の手に取られ、社会を変えるための議論に一石を投じることを念じています。
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2013年01月15日
弁護士 出 田 健 一
第2版刊行後6年を経て、昨年12月に西谷敏先生の『労働組合法第3版』(有斐閣)が出版されました。
同書の「はしがき」にもあるとおり、主な改訂箇所は労組法上の「労働者」概念に関する部分(同書77頁以下)と「使用者」概念に関する部分(149頁以下)です。いずれも当協会の会員が取り組んだ事件に関係しますが、前者は三つの最高裁判決が出て判例命令の前進面が顕著です。これにつき、「新たな最高裁判決の結論そのものは広く支持されているが、判決がいずれも事例判断にとどまっていることもあって、理論的な決着にはほど遠い状況である」として、著者は労組法3条の「労働者」は憲法28条の「勤労者」と基本的に同義で、「その意味内容と範囲は、基本的には憲法28条の趣旨から導かれるべきである」として、全逓中郵事件の最高裁大法廷の判旨も引用しながら、「使用者(労務供給の相手方)との関係で社会的経済的に従属的な地位にあり、そのために労働基本権の保障を必要とする者」と定義し、最高裁判決や労使関係研究会報告を批判的に検討されています。これは「経済的従属性」を基準とする説です(先生の『労働法』459頁も参照)。
一方、「使用者」概念についての判例命令は複雑です。派遣・下請関係や偽装解散・事業譲渡の場合には相当の前進面が見られますが、関西航業事件・大阪証券取引所事件や近年の高見澤電機製作所事件のような支配企業の使用者性をめぐる判例命令は、派遣・下請型に関する朝日放送事件最高裁判決の判断方法を形式的にあてはめて、支配企業が従属企業の労働条件等の具体的決定に関与することを求めています。先生は、「支配企業が、株式所有、役員派遣その他を通じて従属企業の経営全体に支配的な影響を及ぼしている場合には、・・・支配企業が従属企業と重畳的に使用者となることを認めるべきである」といわれます。ここは旧版にあった「間接的」「実質的」影響という文言がないので一瞬無限定ではないかと感じましたが、代わりに、158頁で義務的団交事項や「誠実」交渉の程度は支配の内容、程度に応じて異なると限定されているので、この相関関係に注意して読む必要があると思います(この理解は本書注29引用の竹内(奥野)氏の論文129頁を参照しました)。なお、経営協議会を利用した複数組合間差別の例として本書でも引用していただいたNTT西日本事件は、種々の理由で被申立人としなかった持株会社が主導し、東西NTTが同席する東京で開かれた中央経営協議会が舞台で、持株会社の使用者性が隠れた、しかし重要な論点でした。その経験で申しますと、理論とは別に弁護団・労働組合の証拠収集・立証の工夫の問題もあります。理論・実践の両面にわたってここを突破するのが次の大きな課題です。
本書では国家公務員労働関係法案等、公務員の労働基本権の展望(73頁)や大阪市に見られる公務員と不当労働行為に関する記述の補充もされています(158頁)。その際、「行政改革」・民営化と国鉄・電電公社を含む官公労働者への攻撃(35頁)の箇所はもちろん、是非とも第1章全部を読まれることをお勧めします。
これは何も公務員の問題に限られません。本書初版の「はしがき」に書かれたように、本書の基本的特徴は、①労働組合法体系の頂点に位置する憲法28条の労働三権を重視していること、②労働基本権の理解において、その自由権的性格をふまえつつ、全体としてそれを労働者の関与権として位置づけていること、③労働者個人の自由意思を尊重する立場から、そうした自由意思が制限される場合にその根拠(正統性)の明確化が要求されるという点にこだわっていることにあります(③は組合民主主義と統制処分の根拠、労働協約の不利益変更とその限界、ユニオンショップ等の諸問題の考察の際に関連)。その真髄を把握するには第1章をよく理解することが必須です。
「憲法28条は『労働組合法』のアルファでありオメガである」(第1節)。それを知るには内外の長い歴史を振り返る必要があるとして、第2節・第3節で詳述されています。北港観光バス事件異議審で強力なヒント・確信になったのもワイマール憲法118条1項(263頁)から説き起こす著者の鋭い論述でしたが、今回正月に読み返して改めて感銘を受けたのは、第3節の大正デモクラシーと労農運動の高揚→戦前の農商務省・内務省・政府の労働組合法案と末弘厳太郎博士らのワイマール・ドイツ労働法の研究→戦後の労働改革と終戦の年の年末に早くも自らの力量で作成できた旧労組法→憲法28条の作成という一連の歴史過程の人的担い手・内容面の連続性・発展性の指摘です(旧労組法までの条文の資料として、さしあたり東大労働法研究会『注釈労働組合法』上巻参照)。その後の占領政策の転換による公務員に関する諸法の制定と労組法改正・・・とずっと続いて現在の情勢と法現象に至る訳です。これは他に類を見ない日本国憲法の労働条項の優れた教科書でもありますし、「GHQ押し付け論」に対する雄弁な反論です。憲法問題を考える際にも必読文献だと思います。
現行労組法制定時には55.8%の労働組合組織率がいまや20%を切り、争議行為件数85件、半日以上の同盟罷業(ストライキ)が年間38件?!、労働組合がある事業所で労使協議機関を設置するのが 83.3%という困難な状況下で(すべて本書に統計資料が引用されていますのでお探し下さい)、著者は「労働組合とは何のために存在するのか、憲法28条はなにゆえにすべての勤労者に労働基本権を保障したのかを問い続け」ます。それは憲法前文、11条、97条等が強調する、過去現在未来にわたって「侵すことのできない永久の権利」の呼びかけです。多くの方々が本書を学習し、明日の糧にしていただきたいと思います。
有斐閣2012年12月発行
A5判並製カバー付536ページ
定価 4,305円
*民法協で特別価格にてお求めいtだけます。
西谷敏ほか著『日本の雇用が危ない-安倍政権「労働規制緩和」批判』(旬報社、2014年)
民主主義科学者協会法律部会
2013年初頭より、「世界で一番企業が活動しやすい国をつくる」とのキャッチフレーズのもと、規制緩和の重要な柱としての労働規制緩和政策が総合的重層的に展開された。こうした状況に応え、『日本の雇用が危ない 安倍政権「労働規制緩和」批判』(旬報社、2014年3月)が刊行された。本書は、以下の内容で構成されている。
①西谷敏「全面的な規制緩和攻勢と労働法の危機」、②五十嵐仁「第二次安倍内閣がめざす労働の規制緩和」、③和田肇「質の悪い雇用を生み出すアベノミクスの雇用改革」、④田端博邦「産業競争力会議ペーパー批判」、⑤野田進「限定正社員の法的位置づけ」、⑥萬井隆令「労働法理への叛旗」、⑦脇田滋「『ブラック企業型労使関係』ではなく、働く者に優しい労働政策を!」、⑧深谷信夫「自由な企業活動と日本国憲法の原理」、⑨深谷信夫「安倍労働規制改革 政策決定糧の記録」、⑩規制改革関係資料。
このように、「本書一冊で安倍政権の労働規制緩和の全体像が把握できるように作られている」(西谷「はしがき」)。だから、「ともかく本書を読んでほしい。そして、『アベノミクス』、『競争力強化』、『経済成長』の名のもとにどのような事態が進行しようとしているのか知ってほしい。そのうえで、それをどのように判断しどのように行動するかは、まさに労働者・労働組合自身の問題であり、労働に関心をもつ人びとの問題である。」(同前)。
以上に尽きるのだが、一言。
働く人びとの、それはほぼすべての国民であるが、労働の場が根底から壊されようとしている。2014年も、労働規制緩和政策は、より具体的に、展開されている。キャッチフレーズこそ、「働く人と企業にとって世界でトップレベルの活動しやすい環境の実現」と微温化された。しかし、現実には、「解雇特区」の再登場と、「残業代ゼロ」と批判される労働時間規制の緩和などである。
この現状を、理論的な問題も含めて、明らかにすることは、最初の一歩である。安倍労働規制緩和を批判し続けなければならない。しかし、批判だけでは、建設への道は拓けない。本書の先に、なにを提起するかが、残された最大の課題である。どういう労働の世界を創造するのか。『里山資本主義』(角川書店)が描き出す新しい日本の姿のように、マネー資本主義と決別した労働の世界を描くのか、である。
深谷信夫 (ふかや・のぶお)
※西谷敏・五十嵐仁・和田肇・田端博邦・野田進・萬井隆令・脇田滋・深谷信夫著『日本の雇用が危ない-安倍政権「労働規制緩和」批判』(旬報社、2014年)
(クリックすると、旬報社のHPに移動します。)
[2014年6月1日掲載]
評者・弁護士 大江 洋一
西谷さんが一般向けの本を出版したことはこれまであまり知らない。一般にはこのような書物は肩肘を張らず、悪くいえばやや程度を落として書かれるものだろうという先入観を抱きつつ読み始めたが、読み進むにつれ、その予想は見事に外れた。本書の内容は専門書・体系書に全くひけをとらないものであり、むしろ学者の議論の冗長(!?)な部分をそぎ落とし、鮮明な問題意識をもとにそのエキスの部分を凝縮した密度の濃いものであった。
冒頭の第1章で、まず労働が人にとってどのような意味を持つのかというところから説き起こす。マルクスやフーコーなどを引用しつつ、「それは苦役なのか、生き甲斐なのか」と問いかけている。そして「労働には本来労働者に喜びを与える側面と苦痛を与える側面とが含まれており、条件次第でいずれかの側面がより強く意識される」としたうえで、「法と政策の課題は、労働ができるだけ多くの労働者に、できるだけ多くの喜びと生きがいを与えるような客観的な条件を作り上げることである」と結論付けている。
そう言えば、若いころ、労働法研究会の機会に西谷さんが「本来労働は人の喜びであるはずだ」と口にしていたことがあった。それ以後も、『労働法における個人と集団』や『規制が支える自己決定』などの労作をはじめとしてこのテーゼが一貫して追求されており、労働法学者としての根本的な問題意識がここにあったことをあらためて知った。
それとともに、この時期にこの書物にかける西谷さんの意気込みが痛いほどよくわかった(と勝手に思った)。
しかし、その西谷さんの思いは果たして今の社会において活かされているのだろうか。
本書を読み進む中で、私には、西谷さんの怒り、嘆きが痛いほど感じられた。西谷さんの議論の立て方は、いつも心憎いほど行き届いたもので、緻密で考え抜いた議論を展開し、異なる見解も公平に正面から取り上げたうえで、ディーセント(研究社の英和辞書では「穏当な、慎みのある、上品な」という意味が先ず記されている)な立場から丁寧な反論を加えるというもので、それ故にこそ立場を超えて幅広く受け入れられ、労働法学会をリードしてきたと言えるのだが、本書においてもそのディーセントな姿勢は貫かれていることはいうまでもないものの、その言葉の背後に、この現状への激しい怒りの焔を痛いほど感じたのである。
ディーセント・ワークの権利を保障した憲法から説き起こし、丹念に資料を拾いつつ、それが国と社会に求められる責務であったのに、特に平成期不況以後の状況は、戦後65年の歴史の中でも特別に複雑で困難な状況下に置かれており、今ほど憲法制定以来の課題であったディーセント・ワークが重要な意味を持つ時期はない、と断じている。
そのうえで、ディーセント・ワークの条件、という視点から、安定的な雇用と公正かつ適正な処遇という整理をしつつ、労働法の全体像についての西谷説を展開している。
ここでは、これまで学者として自らに課してきた法を取っ払って、思うところを自由に飛翔させているように感じられる。それぞれ実に内容豊かで心を打つ議論である。たとえば労働と人とモノの関係を論じる箇所である。労働を商品と捉えたことは、実は歴史的には進歩的側面からの議論であり、そのこと自体はまだ今日の日本では現実にも重要であることを押さえつつ、労働者は「労働は売っているが魂までは売っていない」ことを絶えず明確化することが不可欠だと指摘する。思考の幅と奥行きがあり、バランスが取れているのだ。
この本論部分は最新の判例や議論を踏まえており、コンパクトな労働法の教科書として充分に通用するものである。最近は労働事件もなく不勉強であったわが身にとって、いい勉強をさせてもらった。
読み終えると、本書は、西谷さんがこれまでの半生を捧げてきた労働法を切り口にして、学者というより一人の人間として、人生の総決算という熱い思いが込められたものだとの思いが一層強まった。たまたまご本人にお会いした時、「白鳥の歌ですね」と言ったら「俺を殺す気か」と返されたが、西谷さんの怒りと嘆きと、ともすれば諦めにも近い思いも漂わせつつ、しかしなおこの時代を生きざるを得ない若い人たちに、未来を切り拓く期待と希望を込めて手渡すものと言えば言いすぎであろうか。
出版社 旬報社
発行日 2011年1月20日
定 価 2100円
四六判上製/357頁
民主法律協会のHP
http://www.minpokyo.org/books/page/2/
〔書評〕 『格差社会にいどむユニオン』(木下武男著)
木下武男のページ (別のページ 2014.03.01)
1 五十嵐仁(PDF版)
2 熊沢誠(PDF版)
3 野営地(PDF版)
4 なんぶユニオン(PDF版) (以下のアドレスが変更されています。2014.02.17))
http://blogs.yahoo.co.jp/tatakau_yunion_okinawa/8222383.html
5 水口洋介・夜明け前の独り言・弁護士(PDF版)
[書評]『現代労働問題分析』(石井まこと・兵頭淳史・鬼丸朋子編著)
[書評]『新自由主義批判の再構築』(赤堀正成・岩佐卓也 編著)
1 高橋 祐吉(大原社会問題研究所雑誌 №633/2011年7月)
2 佐野修吉 (『新社会兵庫』2010年11月23日)
3 野営地にて――あるいはレーニンがクラシックを聴かないこと。(2010年10月04日)
4 たんぽぽコーヒーブレイク――熊本の弁護士寺内大介(2011年9月26日)
5 雑誌『前衛』 (日本共産党発行、2010年12月号) 2012.07.04 new
▽追加2012.09.02
久米郁男:「日本型労使関係」賛美論を批判する
年功賃金・性差別賃金・同一価値労働同一賃金などの論点
遠藤公嗣著『賃金の決め方―賃金形態と労働研究』(ミネルヴァ書房,2005年6月),vi+233頁,定価2800円+税)、小越洋之助、大原社会問題研究所雑誌 No.568/2006年3月
* 本サイトの主なCONTENTS インターネット上の労働組合のいま、未来 2 連合運動は「社会のバリケード」になれるか |
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編集人:飯島信吾 ブログ:ある編集者のブログ 企画・制作:インターネット事業団 のホームページ インターネット事業団(本メールにご連絡ください) UP 2012年07月07日 更新 2012年08月26日 更新 2012年09月02日 更新 2012年09月10日 更新 2012年11月09日 更新 2012年11月09日 更新 2013年01月10日 更新 2013年12月15日 更新 2013年12月24日 更新 2013年12月25日 更新 2013年12月27日 更新 2014年02月17日 更新 2014年03月01日 更新 2014年03月07日 更新 2014年04月15日 更新 2014年06月02日 更新 2014年06月09日 更新 2014年07月03日 更新 2014年08月04日 更新 2014年11月17日 更新 2015年03月01日 更新 2015年04月05日 更新 2015年04月22日 更新 2015年07月28日 更新 2015年08月19日 更新 2016年02月21日 更新 2016年05月27日 更新 2016年09月01日 更新 2017年08月15日 更新 2017年10月17日 更新 2018年02月09日 更新 2020年07月23日 更新 2020年08月13日 更新 2021年01月15日 更新 2021年06月13日 更新 2021年06月16日 更新 2021年07月23日 更新 2024年11月07日 |
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