次世代につなげるために

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首都東京における地域労働組合運動
 
: 新宿区労連と全労連・新宿一般労組の組織、運動
  法政大学大原社会問題研究所 [編](ワーキングペーパーNo.36)、2010年2月発行


  



はしがき

 この報告書は、東京における地域労働組合の活動についての調査の記録である。調査の対象となっているのは、新宿区労連と全労連・新宿一般労働組合であり、新宿区労連加盟の自交総連グリーンキャブ労組、日本医労連東京女子医大労組、全印総連東京地連西部地区協議会、日本光電工業労組、出版労連C&S労組、国公労連統計センター労働組合、特殊法人労連学生支援機構労組、東京都庁職員労組本庁支部である。
 調査を行ったのは新宿区労連・新宿一般調査プロジェクトチームであるが、これは法政大学大原社会問題研究所の研究プロジェクトというわけではない。しかし、プロジェクトチームの申し出を受け、調査報告書を当研究所のワーキング・ペーパーの一冊として刊行することにした。
 というのは、新宿という首都東京の中心部における地域労働組合の実態を明らかにするような調査は数少なく、大変ユニークな報告書だからである。この調査は、結成からちょうど20年を経過した全労連(全国労働組合総連合)傘下の地域ローカルセンターと個人加盟の地域ユニオンを対象とし、運動方針や資料などの文献研究、役員や活動家、一般の組合員に対するインタビュー調査、機関会議の傍聴など、多角的な各種の方法を駆使して実行されたものである。今日、・労働組合運動再活性化の手がかりの一つとして注目されている社会運動ユニオニズムの実証的研究として先駆的な調査だと言える。
 このような調査結果をできるだけ幅広く普及し、労働組合運動の研究や運動の発展に役立てることは当研究所の目的に合致し、社会的責務を果たすことにもなる。また、調査チームのメンバーとして、芹澤寿良客員研究員をはじめ、浅見和彦嘱託研究員や田中紘一嘱託研究員、長谷川義和嘱託研究員など、当研究所の研究員が多く参加しているという事情もあった。
 法政大学大原社会問題研究所では、現在、労働組合運動の再活性化に向けて、日本、アメリカ、韓国、オーストラリア4カ国の国際比較というプロジェクト研究も行っており、そのための個人加盟ユニオンの調査も実施している。新宿労連・新宿一般調査プロジェクトチームによるこの調査報告書によるローカルな研究と、国際比較研究によるグローバルな成果を結合することによって、労働組合運動の再活性化に向けての新たな知見が得られ、日本の労働研究と内外の労働組合運動の発展に資することができれば幸いである。


                法政大学大原社会問題研究所
                        所長  五十嵐仁

目 次

 はじめに―本調査の目的と意義              1

Ⅰ 首都東京の戦後労働組合運動における地域組織の歴史的変遷 3   《PDF
               (担当:菅頭 康夫 高橋 博 屋代 眞)
 1 首都東京におけるナショナルセンターの再編をめぐる動向と統一労組懇運    動と東京労連の結成
 2 東京労連と東京地評の併存、合流に伴う組織問題

Ⅱ 新宿区労働組合総連合(新宿区労連)の組織と運動     13  《PDF
                           (担当:芹澤 壽良)
 1 新宿区の今日の諸特徴と労働団体の動向
 2 新宿労組連絡会から新宿区労連へ、結成までの経緯
 3 新宿区労連の行動綱領と組織構造
 4 組合機関の運営状況
 5 新宿区労連の今後の進路-2009年度運動方針から
 6 新宿区労連の基本的運動

Ⅲ 新宿一般労働組合(新宿一般)の組織と運動        44  《PDF
                           (担当:浅見 和彦)
 1 結成の経緯
 2 新宿一般の中長期的課題と運動方針
 3 新宿一般の主要な運動
 4 新宿一般の組織、運営、教育学習と財政
 5 地域ユニオンとしての新宿一般の特質―他の6組織との比較

Ⅳ 新宿区労連の基本的運動課題の展開           60   《PDF
 1 すべての労働者を視野に入れた労働条件底上げと雇用確保の取り組み                                (担当:長谷川 義和) 
 2 地域における労働組合組織間の協力、共同による共通課題の運動――「憲法・
 教育反動化・国鉄闘争支援西部連絡会」の活動     (担当:芹澤 寿良)
 3 社会的、政治的運動団体及び住民との協力、共同による政策制度要求、国民的課題の運動                       (担当:東 洋志) 

Ⅴ 新宿区労連加盟の幾つかの労働組合の組織と特徴的運動  89
   《PDF》 1 自交総連・グリーンキャブ労働組合        (担当:田中 紘一) 
    ○計画的な組織化と学習活動に取り組む区労連の中心組合
 2 日本医労連・東京女子医大労働組合        (担当:芹澤 壽良)
    ○従業員過半数代表選挙、組合役員が90%前後の支持で代表権獲得
 3 全印総連・東京地連西部地区協譲会        (担当:小澤 晴美)
    ○印刷出版関連企業の訪問聞き取り調査活動の実施
 4 日本光電工業労働組合              (担当:長谷川義和)
    ○非正規労働者の組織化と待遇改善の取り組み
 5 出版労連・C&S日本支社労働組合         (担当:芹澤 壽良)
    ○外資系企業による組織拡大に対する不当労働行為と果敢に闘う労働組合
 6 国公労連・統計センター労働組合          (担当:田中 紘一)
    ○要求で“多数派”をめざす女性組合員のたたかい
 7 特殊法人労連・学生支援機構労働組合        (担当:赤堀 正成)
    ○臨調「行革」路線に一貫して反対し、国民のための奨学金制度をめざして   活動する労働組合
 8 東京都庁職員労働組合本庁支部           (担当:芹澤 壽良)
    ○区労連にオブ加盟し、副議長組合として地域労働運動を重視する労働組合

Ⅵ 調査結果からの提言                  122  《PDF

 1 調査を通した全般的な印象や感想
 2 若干の提言

<資料編>                        132  《PDF
   ○戦後の労働組合中央組織の変遷
   ○東京における労働組合運動の組織変遷図(概略)
   ○新宿区労連・行動綱領
   ○新宿区労連・規約
   ○加盟組合名簿
   ○活動報告日誌(08・9~09・8)
   ○「新宿区労連NEWS」
   ○自治体への申し入れ書と回答(07・5・14)
   ○「貧困と格差是正にむけての要請書」(08・4・29)
   ○「緊急!雇用対策についての要請書」(09・1・27)
   ○新宿一般労組の進路
   ○組合規約
   ○「新宿一般NEWS」
   ○加入よびかけチラシ
   ○「労働相談にあたる労働相談員の心得」
   ○全労連・ローカル・ユニオン運動政策(2002年)

<調査チーム・メンバー>
        新宿区労連・新宿一般調査プロジェクトチーム
               赤堀 正成(労働科学研究所)
               浅見 和彦(専修大学教授)
               東  洋志(東京自治体問題研究所)
               芹澤 寿良(高知短期大学名誉教授)
               田中 紘一(労働者数育協会)
               長谷川義和(大月短期大学教授)

         協力者・氏名
               菅頭康夫(新宿区労連顧問)
               高橋 博(新宿区労連議長)
               屋代 眞(新宿区労連事務局長)
               岡村 稔(新宿区労連事務局次長)
               小澤晴美(全印総連東京地連執行委員)
     
             

2009-12-21

12月21日(月) 新宿区労連調査聞き取りへの感想 [論攷]

五十嵐仁(大原社会問題研究所)

  

http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2009-12-21


〔以下の論攷は、新宿労連・新宿一般調査プロジェクトチームに加わって行った聞き取り調査への感想です。新宿労働組合総連合(新宿労連)『われらの進路-新宿区労連第21回大会議案書』に収録されています。このプロジェクトチームによる調査の報告書も、大原社会問題研究所のワーキング・ペーパーとして刊行される予定です〕

新宿区労連調査聞き取りへの感想

 私は、新宿区労連調査の正式メンバーではないが、労働運動の現場で活動されている方の声を直接聞き、現在の労働組合運動のリアルな状況を知りたいと思い、オブザーバーとして、2回にわたって調査に参加させていただいた。一回は4月24日のグリーンキャブ労組からの聞き取りで、もう一回は6月8日の新宿一般労働組合の組合員からの聞き取りである。以下、お話しをうかがっての感想を書かせていただくことにする。

 グリーンキャブ労組からの聞き取りでは、タクシー業界における規制緩和がどれほど大きな害悪と困難を引き起こしているかが、具体的かつ豊富な事例によって明らかにされた。「労働再規制」を主張し、『交通界』誌でのインタビューで運輸業界での再規制を主張した私としては、大変、参考になる有益なお話を聞かせていただくことができた。
 また、このような状況の下でのタクシー・ドライバーの職能的労働組合として、注目すべき活動の数々に接することもできた。以下、簡単にコメントすることにしよう。
 その第1は、職場委員制度である。これは中央委員を支える幹部活動家を職場委員とするもので、組合員10人に1人くらいの割合になるという。話を聞いていて、イギリスのショップ・スチュワードに似ているという印象を持った。熟達した組合員の経験と積極性を活かすという点ではプラス面が大きいと思われるが、同時に、いつまでも先輩が幅をきかせていて若い幹部が育たないのではないかというマイナス面も懸念される。両者のかねあいと運営上の工夫が求められるように思われる。
 第2は、世話役活動の重要性である。組合は、賃上げだけでなく生活上の多様な要求に対応しており、一人ひとりに対するケアを重視しているという。特に、タクシー・ドライバーにとって大きな問題である交通事故などへの対応では、顧問弁護士の力も借りて適宜に即応しており、会社からも頼りにされているほどだという。労働組合としてのお手本のような活動であり、ハイ・タク労働者の組織率の高さの秘密はここにあるように思われる。
 第3は、民主的運営や異なる潮流の労働組合との共同への配慮である。少数意見の尊重という観点から、労働組合の役員選挙でも完全連記制にはしていないという。多様な意見の組合役員の選出を保障するということであろう。連合系や企業内組合などの労働組合との共同についても配慮しており、可能な限り共同行動にとり組んでいるという。
 第4は、産業別労働組合の役割である。この点では、上部団体である自交総連東京への注文が多く出された。独自の賃金制度を維持しているが、基本的には産業別レベルでの賃金協定が必要であり、産別組合にイニシアチブを取って欲しいということであった。また、タクシー業界は過当競争に陥りがちで、売り上げを上げるために長時間労働になりやすいという傾向がある。これを是正するためにも、産業別の労使協定が望まれるという。
 第5は、技能や技術の向上に向けての取組である。職能的な労働組合として、タクシー運転手としての技能・技術の向上や専門性を高めることにも努めている。介護タクシーを運行するために2級ヘルパーの資格を取ったり、救急救命士の資格を取るなどである。また、タクシー運転免許法の制定などもめざしているが、この点でも産別労組の機能発揮が求められるという。

 後者の新宿一般労働組合では、2人の組合員から聞き取りをした。そのうちの一人は法政大学の卒業生でもあった。ここでも、大変有益な話をうかがうことができた。
 第1に、インターネットなどの新しい情報手段の活用である。組合のHPはデザイナーの協力を得て作成されたとのことだが、労働組合としての組織色を薄め、専門的な用語を少なくすることに心がけたという。その結果、日本機関紙協会のホームページ作成コンクールで奨励賞を獲得している。今後は、更新頻度を高めて内容の充実を図り、個々の組合員が書き込みをできるようにするなどの点で、さらなる改善が必要だろう。
 第2に、「しゃべり場」など組合員が自由に集まれる場所の確保である。非正規の拡大などで働き方が多様化し、成果・業績主義の導入などもあって労働者が分断されている現状では、労働現場におけるコミュニテイの形成自体に大きな価値が生まれている。すなわち、「仲間のいる幸せ」を提供するという点での労働組合の役割であり、存在意義である。したがって、何でも話せる仲間がいること、いつでも集まって話せる場があるということの意味は大きいといえる。
 第3に、非正規労働者に対する働きかけの重要性である。この点で、強調されたのが「目線」の問題であった。つまり、どれだけ正規労働者が非正規労働者の置かれている状況や立場を理解したうえで働きかけているのかということであろう。両者の条件の違いをわきまえつつ、同時に、非正規と正規との「労労対立」にならないような対応が求められる。このような違いに対して非正規労働者は敏感に反応するが、得てして正規労働者側は鈍感だという。特に、この点では正規労働者側の配慮が必要であろう。
 第4に、労働相談などの増大とそれへの対応という課題である。担当できる者が限られていて、相談が増えれば組合活動に支障が生ずることもあるという。この点では、学習教育活動などを通じて労働相談に対応できる担当者を増やすことが必要であろう。同時に、このような活動に従事する中で経験を積んでいく、OBなどの経験者を活用する、他の組合や上部団体の援助を仰ぐなど、様々なやり方を組み合わせ、全体として労働相談に対応できる体制の充実を図るなどということも重要であろう。
 
 最後に、両方に共通していたのは、学習教育活動への取組の重視である。前者では、年1~2回、賃金を保障し、ホテルを借り切って泊まり込みで組合の歴史などを繰り返し学んでいるといい、後者でも学習会が頻繁に開かれているという。聞き取りをした1人は、学習教育委員会担当の執行委員であった。一般労組でも、学習教育活動がきちんと位置づけられているという点が重要である。世代交代が進んで幹部が入れ替わり、新しい組合員が多いという条件の下で、組合幹部の力量を高めて新規組合員の定着を図るうえで、このような取組はさらに意識的に進められる必要がある。我々研究者も、このような領域でもっと協力すべきだと痛感した次第である。
以上







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韓国非正規労働者の状態と課題(静岡県労働研究所)

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ユニオンショップ制(牛丸修)


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『転形期の日本労働運動――ネオ階級社会と勤勉革命』(東京管理職ユニオン)
『合同労組運動の検証──その歴史と論理』(松井保彦著)の書評と紹介
1高須裕彦
2呉学殊
3 早川征一郎


▽全労連を担う人たち
  (2012.07.07 new)
全労連を担う人たち(2)
   (2012.07.23 new)

編集人:飯島信吾
ブログ:ある編集者のブログ


UP 2016年12月23日
更新 2016年12月23日