職種別・職能別ユニオン、個人加盟ユニオンなど新しい労働運動の提起 ★2016.02.25更新
この格差社会をぶち壊せるのは、法律でもなければ行政でもない。それは、働く者たちの連帯を社会的な力に変えるユニオニズム以外にない。戦後における日本型労働運動=企業別労働組合衰退の根本原因を見すえ、労働運動新生の基本方向を大胆に提示。
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木下武男 著
花伝社 2007年09月 |
「はじめに」より
はじめに
第Ⅰ部 労働社会の大転換を見すえる
第1章 グローバリゼーションの衝撃
一 生産拠点と市場のグローバル化
二 「底辺に向かう競争」の展開
三 新自由主義による「国民的競争国家」つくり
四 グローバリゼーションの人間と地球へのインパクト
第2章 企業中心社会のもとでの日本の格差社会
一 日本的労使関係と企業社会
二 「企業依存の生活構造」と格差社会
三 日本型雇用と年功賃金の上にあった格差社会
第3章 格差社会から階層社会への転成
一 日本における格差社会の形成
二 一九九〇年代における労働市場の「流動化」段階
三 二〇〇〇年代における労働市場の「非正社員化」段階
四 新しい労働者類型の登場
五 「非正社員化」戦略と全国労働市場
六 日本型雇用・年功賃金の解体によって形成される階層社会
七 「企業依存の生活構造」の破綻とワーキングプア
第Ⅱ部 労働運動のルネッサンス
第4章 労働組合の機能と組織性格
一 自由な労働市場と労働組合の原点的機能
二 自発的結社としての労働組合の原点的組織性格
第5章 企業別労働組合体制を脱却する方途を探る
一 労働運動の現段階と労働組合改革
二 企業別労働組合体制
三 企業別労働組合体制の改革
四 活動家集団論
第6章 新ユニオン運動の提唱
一 貧困と差別に抗する社会的連帯
二 個人加盟ユニオンの現段階と発展方向
三 若者労働運動
四 「産業別・職種別運動」型ユニオン
五 社会的労働組合運動
第7章 福祉国家戦略と「労働政治」の展開
一 労働運動と福祉国家
二 日本における福祉国家戦略と「労働政治」のあり方
三 時代転換期における社会労働運動の再生
第Ⅲ部 戦後労働運動史の断面――企業用労書取合の形成
第8章 戦後の高揚と企業別労働組合への水路(一九四五~六〇年)
一 戦後労働運動の高揚と後退
二 戦後労働運動の分裂と後退
三 企業別労働組合としての出発
四 総評結成と労働運動の前進
五 日本的労使関係の形成と五〇年代争議
第9章 企業主義的統合と労働運動の跛行的展開(一九六〇~七五年)
一 日本的労使関係の確立と労働運動の路線選択
二 労働運動の表層を彩る流れ
三 深層から浮上する流れ
第10章 労働運動の後退と労働社会の構造転換(一九七五年~)
一 公務員攻撃と国鉄分割民営化
二 労働戦線統一による総評の解散と連合・全労連の結成
三 労働組合の社会的役割の低下
四 労働運動新生の予兆
第11章 企業別労働組合をめぐる論争をふりかえる
一 企業別労働組合論の提起と批判
二 労働組合をめぐる諸議論
三 企業別組合成立の「伝統欠如」説と主体的要因
参考文献
資料
あとがき
木下武男の「主な労働問題・労働組合論」
(『格差社会にいどむユニオン――21世紀労働運動原論』 より
1985年、★労働組合とはなにか、木下武男、『講座 現代・女の一生 6』岩波書店、A5判・378頁、1985年8月19日
1990年、編集・執筆『労働問題実践シリーズ5 労働組合を創る』大月書店
1990年、編集・執筆『労働問題実践シリーズ6 組合運動の新展開』大月書店
1992年、「産業別全国組織の分裂・再編と民間『連合』への道のり」『違合時代》の労働運動-再編の道程と新展開』総合労働研究所
1992年、「対抗的ナショナル・センターの形成にともなう産業別全国組織の分裂と再編」、同前
1993年、「企業社会と労働組合」『労働運動と企業社会』大月書店
1994年、『企業社会の克服と労働運動』けんり春闘
1996年、「労働組合運動」、渡辺治編『現代日本社会論』労働旬報社
1997年、「女性運動」同前
1997年、「日本的労使関係の現段階と年功賃金」『講座現代日本3日本社会の再編と矛盾』、大月書店
1997年、「日本型福祉国家戦略と社会労働運動」『講座現代日本4日本社会の対抗と構想』、大月書店
1999年、『日本人の賃金』平凡社新書
2002年、「日本的雇用の転換と若者の大失業」『揺らぐ(学校から仕事へ)』青木書店
2003年、「グローバリゼーションと現代日本社会の地殻変動」『時代転換の諸断層』日本経済評論社
2003年、「働き方・暮らし方を変える、東京を変える」『どんな東京をつくるか』萌文社
2004年、「企業主義的統合と労働運動」『日本の時代史27高度成長と企業社会』吉川弘文館
2004年、「日本型雇用・年功賃金の解体過程」『日本の時代史28 岐路に立つ日本』吉川弘文館
2004年、「日本の男女賃金差別と同一価値労働同一賃金原則」(『ジェンダー白書2 女性と労働』明石書店
2005年、「ワーキング・プアの増大と『新しい労働運動』の提起」『ポリティーク10号』
2005年、「戦後労働運動の思想――企業別労働組合論をめぐって」『唯物論研究年誌』第10号、青木書店
職場の人権例会報告 『新しいユニオン運動-その多様性、その意義、その課題』
▽第120回 2009.9.19
http://homepage2.nifty.com/jinken/record/record_frame.htm
報告者:木下 武男さん(昭和女子大学大学院教授)
コメンテータ:熊沢 誠さん(当研究会代表、甲南大学名誉教授)
今例会は、研究会がスタートして10年の節目に当たります。この間、私たちの願いとは裏腹に、労働者を取り巻く状況は以前にも増して厳しくなり、昨年末の「年越し派遣村」のような事態も現れました。
一方で、8月末には政権交代が実現しました。労働運動も変わらなければなりません。新しい動きとして、若者を主体とするユニオン運動が注目を集めています。今回は「格差社会にいどむユニオン」(07年、花伝社)などを著し、労働運動全体の再生に向けて精力的な発言を続けてこられた木下さんをお招きしました。
木下さんはユニオン運動の背景として、非正規雇用で家計を賄わねばならない人がこの10年で急増したこと(従来からシングルマザーはこの状態だったが、全体から見ると少数であったため注目されなかった)、労働者を退職に追い込むためのいじめや無法状態が常態化したこと(単に貧しいというだけでは人は立ち上がらない。不当な仕打ちへの怒りや抗議がその前提)の2つを指摘。
とくに後者の絡みで、「無法状態にあって法律を守らせる運動をするから青年ユニオンは百戦百勝」「2度も過労死を出したファミリーレストラン・すかいらーくの労組委員長が死者を侮辱する文書を書き、東京東部労組が謝罪文を要求するなど、東京ではユニオンと既存労組の対立が激しくなっている」と述べました。
未組織労働者を組織化する運動は、今に始まった訳ではなく、50年代に始まる合同労組や80年代からの個人加盟労組・コミュニティユニオンの形で長い歴史を持っています。ただ、合同労組は業種や職種別に結集できず狭い地域で固まったこと、さまざまの対立が原因で分裂を繰り返したことなど歴史的な限界があり、組織の枠を超えてまとまる力や意欲には欠けていました。
木下さんは「新しいユニオン運動」について、合同労組など過去の運動を否定してできたものではなく、連合なども含めて「新しい傾向」が生まれてきたと考えるべきだとし、その特徴を「非正規労働者に周辺的正社員=各種チェーン店や介護、保育、塾などの職場によくみられる、定期昇給やボーナスのない正社員=を加えた流動的労働市場を対象にし、相談活動を重視している」「純粋な個人加盟のユニオンで、若者が運動の主体となり、学習会や交流会などの広がりも出てきている」「専従者を置くためのカンパ活動、労働相談など、NPOやボランティアが積極的に支援している」とまとめました。
相談活動でも、最近は変化がみられるといいます。これまで1人で来て相談していたのが、次は友達を連れて来るなど集団的なものになっている。これは会社の労務管理そのものが変化し、1人をいじめるよりグループ全体の賃金を一律に下げるようになっているせいとのことです。
派遣会社だけでなく、派遣受け入れ企業の責任を明確にする姿勢も広がっています。木下さんが支援している「ガテン系連帯」では、700人の派遣切りをした大分キヤノンに補償金として1億円を出させました。紳士服チェーンのコナカを組織する東京東部労組は「紳士服業界の労働条件を丸ごと向上させましょう!」のキャンペーンをし、個人の救済にとどまらない「集団利益」の追求に取り組んでいます。
報告は「新しいユニオン文化の可能性」に及びました。幹部請負・代行主義から当事者主義へ、指令・動員型から参加型への転換は誰の目にもはっきりしています。とくに学生や非正規の若者で、これまで環境ボランティアや国際ボランティアに行っていた人たちが国内の貧困や労働に目を向け始めており、上から目線で説教したり大声で威圧したりといった旧来の「組合の悪しき作風」を修正する動きにもつながっています。
木下さんは、運動に入ってきた若者からの聞き取りを通じて、「闘っている人と出会うことで無力感から解放され、わがままではなく正当な権利を主張しているのだという自覚と喜びが生まれる」過程を詳しく説明。これらユニオンの創造と拡大、支援をさらに進め、「労働市場規制型ユニオン」に発展させる、との展望を示しました。
熊沢さんは、木下さんの労働組合に対する深い関心とその理論を高く評価する一方、「使い捨てられる正社員が増えているのは事実だが、日本の労働者の大部隊は上位職務へのキャリア展開の可能性があるノンエリート正社員であり、彼らが職場への定着を望んでいることは否定できない(直ちにユニオン志向とはなりにくい)」と反問。さらに83年を「元年」とするコミュニティユニオンと「新しいユニオン」がどう関係しているか、旧世代からの「指導」はあるか、などと問いかけました。
フロアからは「若者の中で女性はどうしているのか」「ユニオン運動で東京ばかり注目されているが、関西ではどうか」「自分は高校教員だが、学校教育と労働運動のかかわりをどう考えるか」などの質問が出ました。
木下さんは、この10年ほどの大企業の職場の変化を「きちんと分析できていない」としつつも、ある銀行がフィナンシャル・コンサルタントの職名で3000人を採用した事例に触れて「低殊遇の専門職という制度転換が起きているかもしれない」と示唆。また、「新しいユニオン」では40歳代のリーダーが多いが、60歳前後のベテランが彼を支えているとうまくいく、と述べました。女性の存在については「若者イコール男性ではなく、女性の運動と若者の運動が反貧困で合流している」と説明しました。
学校教育との関係では、若者の労働NPO「POSSE」が仙台の教育委員会の依頼で出前授業をやっている例が示されました。関西のユニオン運動についてはあまり触れられませんでしたが、東京で運動が広がった背景については、02年(大阪では04年)から毎年続く「レイバーフェスタ」での交流の意義が強調されました。映像を通じて欧米や韓国の労働運動が身近なものになったこと、3分間ビデオで自分たちの主張を紹介するなど、多彩な体験をした若者の活動家が増えたことなどが理由です。
『なぜ富と貧困は広がるのか』NPO法人POSSE(ポッセ)のブログより
http://blog.goo.ne.jp/posse_blog/e/91cea9a00b60d7d9fb27e97060726bf0
「日雇い派遣」、「名ばかり管理職」、「過労死」・・・・・最近の新聞を賑わすキーワードだ。さらに、年収300万に満たない正規労働者の数は211万人、自殺者も3万人を超えたたままだし、生活保護世帯も急増している。だけど、政府や企業は、こうした問題になんの対策もしようとしない・・・・・・・
非人間的な働き方が横行する社会が、蔓延している。
その一方で、大企業は、グローバル競争の只中で、大幅な利益増を勝ち取っている。
そういえば、最近起きた秋葉原の事件も、サブプライムローンと石油と原料高騰の影響を受ける形で、トヨタがコスト削減する方針を出し、それに従った関東自動車が日研総業の派遣労働者との派遣契約の中途解約を行ったことが原因の一つとして考えられるらしい。こういった大企業の利益を守るための経営戦略のつけが、末端の労働者に回ってくるような実情は、いたるところで発生しているだろう・・・・・・
洞爺湖でサミットが開かれた。今年のサミットは、「環境問題」への対処も大きな議題らしいが、議長国の日本は、未だに温室効果ガスの排出量が増加しているとか。さらに、温室効果ガスの削減を求めた京都議定書に、排出大国アメリカは批准すらしていない。政府は、個人レベルの環境保護活動にはうるさいが、企業活動に対する環境規制はかなりあまい・・・・・・
こうしたニュースを聞くたびに、ついついため息をつきながら、こういった疑問が出てこないだろうか?
まず、なんで労働者は、こんな「使い捨て」のモノのように扱われるのか?
次に、なんで貧困や環境破壊を生み出してまで、企業は活動するのか?
最後に、そもそも、そういった「暮らしくい社会」に対して、なぜ国家は「暮らしやすい社会」のための取り組みをすぐにしてくれないのか?
今回、ご紹介する『なぜ富と貧困は広がるのか』は、まさにこうしたふとした疑問にとてもわかりやすく答えてくれる本です・・・というだけでなく「格差社会を変えるチカラをつける」ために作られた、アグレッシブな目的意識を持てる本なのです!
第一章は、企業は、労働者を雇って、働かせ巨大化していくのに、なんで、生産の当事者である労働者の生活は、企業の巨大化に比例して、良くならないのかといった根本的な疑問に対する解説から始まります。その解説にあたり、労働の対価として考えられている労働賃金や労働者が作り出す商品の価値がいかにして決まるのかを知ることになります。そして、そもそも企業の利益って、どこから生まれるのかといった問題にも触れながら、一つひとつのナゾを紐解いていきます。
第二章は、第一章を受けた形で、より大きな枠組みの話に移っていきます。なぜ、この社会では、雇う側と雇われる側(雇われてやってる?)といった立場の違う人間が作り出され、両者の間で格差が広がるのかを普段聞きなれない「階級」といった言葉を用いて歴史的な変遷を追いながら説明していきます。そして、この章では、そうした社会における「国家」の役割を、国家の起源まで遡りながら考えていきます。
第三章は、ヨーロッパにおいては、市場をも規制する力を持ち、人々の生活にまで根ざした運動を繰り広げている「労働組合」の社会的役割を、「労働組合?なにそれ?」といった感じでユニオン(組合)の社会的役割と認知度が著しく低い日本での労働組合の課題と合わせて考える章となっています。実は、この章が、この本の中で最もイメージしにくい内容かもしれませんね。
第四章は、富める者と貧困にあえぐ者が生み出される社会が、どういった社会的な構造で形成されてきたのかを各章で知った上で、新たな社会的ビジョンを、「新たな福祉国家」戦略を提示しながら説明されています。社会分析に関する本は、ちまたに溢れているけど、なかなかオルタナティヴの提示を具体的に提示する本が少ない日本では、各々の立場から社会を変えていくビジョンを考えるにあたってのバイブルとしても使えるかもしれません。
この本は、序章で触れられているように、現在の日本社会で露骨に現れてきた、雇う側と雇われる側の対立を、「現在の社会のしくみに深く根ざした対立」として捉えています。そして、その「社会のしくみに深く根ざした対立」がなぜ生まれるのかを、各章で説明しているのです。まさにそうした問題を考えること自体が、今、自分自身や周りの人間の置かれている実情を知りながら、よりよい新たな社会を構想するための土台となるのでしょう。
この本を読み終えた時、もうあなたにも「格差社会を変えるチカラ」の一部が備わっているかもしれません。
ぜひぜひご一読あれ・・・・
『なぜ富と貧困は広がるのか (格差社会を変えるチカラをつけよう) 』
後藤道夫+木下武男
A5判並製/164頁/
定価1、470円
発行日 2008年6月10日
ISBN 978-4-8451-1074-2 C36
旬報社
<著者紹介>
後藤道夫(ごとう・みちお)
都留文科大学教授。専門は社会哲学、現代社会論。主な著書に『収縮する日本型〈大衆社会〉-経済グローバリズムと国民の分裂』(旬報社、2001年)、『反「構造改革」』(青木書店、2002年)、『戦後思想ヘゲモニーの終焉と新福祉国家構想』(旬報社、2006年)など。
木下武男(きのした・たけお)
昭和女子大学数授。専門は現代社会論、労働社会学、女性労働論。主な著書に『日本人の賃金』(平凡社新書、1999年)、『格差社会にいどむユニオン-21世紀労働運動原論』(花伝社、2007年)など。
<主な目次>
序 章 貧困化する社会に未来はあるか
第1章 企業は巨大化するのに、なぜ暮らせない労働者が増えるのか
第2章 私たちは階級社会に生きている
第3章 なぜ労働組合は生まれ、どんな役割を果たすのか
第4章 私たちはどのような社会をめざすのか
▽ご参照、ください
2008年11月30日 (日)
読書日記 夜明け前の独り言 弁護士 水口洋介
建設独占を揺がした139日―関西生コン闘争が切り拓く労働運動の新しい波(2011年04月刊)
「5・11弾圧事件の元」が記録された1冊
3・11東日本大震災と福島原発事故。この列島に生きるわたしたちは、いま間違いなく歴史の転換点に立ち会っている。どのような道を選択するか、その主体
をつくりだすのはわたしたち自身だ。未曾有の危機がもたらした転換期にあって、歴史的選択を迫られているわたしたちの前に、関西生コンの労働者群像がいる
ことの幸運を思う。 (「発刊にあたって」より)
発行:変革のアソシエ 発売:JRC
共著者
木下武男(昭和女子大学人間社会学部教授)
関西生コン労組のストライキが切り開いた地平 : 労働運動の現段階と業種別・職種別運動(特集 関西生コン闘争が切り拓く労働運動の新しい波)、木下 武男、変革のアソシエ(5)、8―17、2011―01
丸山茂樹(参加型システム研究所客員研究員)
本山美彦(大阪産業大学 学長)
田淵太一(同志社大学商学部教授)
武建一(連帯ユニオン関西地区生コン支部執行委員長)