以上は最初に訪問した「自治体国際化協会ロンドン事務所」(Japan Local Government Centre(CLAIR London)でのブリーフィングで知らされた。ここにおいてパワーポイントでレクチャーをしてくれたのはキルヒナーさん(Ms.Irmeiland Kirchner)である。この方はドイツ人であるが、日本語も流暢で、イギリスの事情に大変詳しく、現在ここでのResearch and Policy Managerである。世界にはこうした才女がいるのだな、と感心しきりだった。
「労働者生活研究所」での質疑応答
この日の午後にはWorking Lives Research Instituteを訪問した。建物は一見して古風で、私はここが何か、さっぱりわからなかったが、そこはロンドンメトロポリタン大学(国立大学)の一部で、その中に「労働者生活研究所」という研究機関であることを知らされた。研究所創立当初から多くの労働組合とも活動し、多くの政府機関、ヨーロッパの政府機関とも協力しているとのことである。また、ここで多くの労働組合活動家などが論文を作成し、学位を取ったとも説明された。
所長のSteve Jeffery教授はフランスの労使関係が専門であるが、当面はイギリスとフランスの労働時間問題、労働組合にとって役立つ分野の研究を行っている、と言っていた。とくにJeffery氏は大変気さくな方々で、私たちに学生相手にように聞き取り易い英語で語りかけてくれた。話には当方の質問項目に関連して多くの重要な内容やサジェッションがあった。
Working Lives Research Instituteにて。
中央右Steve Jefferys教授、左Sonia.Mckay研究員
お二人の話では、イギリスでは日本と同じように、労働市場のフレキシビリティが進行し、有期パート、派遣労働者、オンコールワーカー(呼び出し雇用)など異なる雇用関係が増え、経営者は仕事の内容、人員、雇用条件を支配し意のままにする傾向が広がっていること、とくに派遣労働者の問題を強調していた。
さらに、イギリスでは労働組合の行う団体交渉の法的地位が欠けている、と発言していた。例えばBA(ブリティシュエアウエイズ)に雇用される客室乗務員がBA747ロンドン東京の夏は何人客乗させる、ということを団体協約で決めることを求め訴訟を行ったが、法廷はこのような人員の定めは強制できず、唯一の例外はストを打つことだ、とのことだった、とのこと。
団体協約が産業全体に強制できなければ、非正規労働者は未組織だから、労働組合は支援しにくく、法律にも支えられない。非正規の賃金の上昇にとって残された手段は時間当たり6ポンドの全国最低賃金しかない、と主張していた。とくに現在の連立政府の緊縮政策に対抗して、ゼネストの合法性とその実施の強調である。両氏の主張はDays of Action-The legality of protest strikes against government cut” として2011年9月雇用の権利研究所から出版されているが、それはTUCにも影響を及ぼしているとのことであった。
レクチャーはダニエルガーサイド、カトリクフェザストン、ニコラレイの3氏(うち女性2人)である。
人事部は非常に詳細な資料を用意してあり、私どもの調査研究の進行にとって大変役立った。地方自治体職員の人事・賃金制度の日英比較だけに関しては、とくにブルーカラーとホワイトカラーの処遇制度の統一化、男女平等の潮流が大きな影響をもたらし、「公正性」などをめざしシングル・ステイタス協定の締結、同一価値労働同一賃金の具体化のために職務評価制度の導入が図られ、それが未達成な自治体でも何らかの対策がとられつつあること、人事評価(考課)の機能は賃金リンクではなく、能力開発などに重点が置かれていること、非正規(直接雇用のパート)はとくに公務では女性比率が高く、給与表でもパートを一般の給与表に位置づけ、労働時間の長短で対応していること、NPM(新型公共経営)の一環としての成果主義賃金化(Performance Related Pay)は現在では導入していないこと、などである。なお、定年制は廃止されたが、年金制度が危機的状況だ、と言っていた。