共に働く街を創るつどい2015「高齢者、障害者、困窮者…孤立・分断こえて―共に生きる地域と障害者の職場参加」が、12月13日(日)、越谷市市民活動支援センターで開かれた。今回はその報告 Ⅰ。
冒頭、越谷市・高橋市長のメッセージが代読された後、朝日雅也さん(埼玉県立大学教授)がコーディネーターを務め、シンポジウムが始まる。
シンポジウムのテーマの趣旨は,以下(要項より)。
〈近年、福祉では就労移行支援や就労A等の事業所が増え、雇用では短時間労働や精神障害者の雇用促進、さらに教育では高等特別支援学校などの制度化により、「追い風」が吹きました。ただ、半面では制度の分立により、障害のある人々がふりわけの対象となり、小さな世界に封じ込められてゆく傾向も生じました。地域そのものが高齢者、障害者、若者、子ども等の生きづらさを抱えつつ、各々別々の支援制度をもって対応してきた結果、「2025年問題」や「2040年問題」と言われる制度破綻や自治体存続の危機すら語られ、次々と屋上屋を重ねるような「改革」が繰り返されている感を抱きます。
家族・地域・職場をばらばらにする支援ではなく、窮地に陥りながらもあがき、悩み、工夫しながらしのいで生き延びている人々、そこに関わり支えて生きながら、自らも生かされてゆく、そんな支援が問われていると思います。〉
「障害者の職場参加」とは、当初から「個」の支援をこえて、「関係」の支援を進める。その志が、現在の地域状況の下で、どのような位置にあるのかを探る。
特別報告として、千葉県の中核地域生活支援センター・長生ひなた所長の渋沢茂さんから。こども、障害者、高齢者を含め対象を限定しない地域生活支援の県単独事業を10年受託している。
【事業内容】千葉県要綱から
■相談事業
子ども、障害者、高齢者など対象者を横断的に捉え、複合的な相談事業を行う。相談等に当たっては、電話だけでなく家庭等を訪問するなどのさまざまな方法により応じる。各種福祉サービスの提供にかかわる援助、調整等を行うとともに、相談者に対する支援計画等を策定する。また、
相談が来るのを待つだけではなく、潜在的なニーズを掘り起こし、相談につなぐことを行うものとする。
■権利擁護事業
相談者等の権利侵害の積極的な把握に努め、福祉救急隊の協力や各種関係機関との円滑な連携のもとに、
権利侵害の解消、本人や家族のケアと尊厳の回復、再発防止策を講じる。
■地域総合コーディネート事業
管轄地域の実情の把握に努め、行政をはじめとする
公的機関、福祉サービス提供事業者、当事者グループ、各福祉資源などと地域住民のニーズをつなげ、利用者に必要なサービスを提供できるよう様々な活動を行う。また、
新たなサービスや福祉資源の開発を通して、埋もれている「地域の福祉力」「人の福祉力」の掘り起こしに努める。
1)相談事業は障害者が最も多いが、次は「その他」、そして高齢者、こどもの順。昨年は「その他」が20%。外国人、未障(障害未満)、グレーゾーン、金に困っている人など。
相談の方法は電話の他、出かけることも多い。一緒に役所に行くとか、病院に行くとか、ご飯を食べに行くとか。
24時間相談を受けている。当初は深夜帯に「ちょっと淋しくなって」という相談が結構あったが、日中に関わってその人の生活基盤をつくっていく中でそういうのがなくなってきた。センターは風呂付で泊れるようになっている。救急車の搬送先が難しく、一緒について行かないと受け入れてくれず、一緒に行って帰りはセンターに連れて帰るということもある。
刑務所を出た人と一緒に仕事探しをしたり。お金を預からせてもらって週1万5千円ずつ渡すとか…後見人制度はあっても、周りは困っているが本人は困っていない場合もあるし。
2)権利擁護事業も行っている。
今は虐待防止法ができたので、児童相談所などと連携しながら、入口・生活支援・周辺環境の整理、また加害者支援などを担っている。そのほか、こうした法律の対象になりにくいグレーゾーンの人やセルフネグレクト、施設生活の問題なども。
3)地域総合コーディネート事業として、地域の機関や組織、人をつなげ、地域・人の福祉力を掘り起こす。
いろいろな会議に出て、よく言われるようにどの会議でも顔ぶれが同じという面もあるが、少しずつちがい横のつながりができる。特に役所は担当課が違うと顔ぶれが違う。役所の人と話していたら、地域の中での連携より庁舎内の連携のほうが難しいと言っていた。福祉と医療の勉強会や弁護士・司法書士などとの勉強会も公開で行っている。
中核センターの活動の特徴は、「うちの仕事じゃない」といった断り方をしない。権限を持っていないので、相手の話をよく聞き、一緒に出かけたりしながら、それを地域の課題としてあげていく。
以上、25分でサワリを話して頂いた。
なんといっても大事なのは、カウンターで話を聴いて専門機関・サービス事業所にふりわけるパターンに終始するのでなく、一緒に地域へ出て動きながら考え合うという点。
当会が越谷市から障害者就労支援センターを受託したのは開設の2005年度~2014年度だが、その数年前から市や関係機関と話し合ってきた中身には、「就労の意志がある限り支援する」というのがある。就労準備性といわれる諸条件が備わっている人をハローワーク等の求人に結びつけるということにとどまらず、たとえば週1時間働くのに残りの日々を家庭や病院で休養に費やすような人がいるなら、そうした働き方が可能な職場を地域で開拓することも含まれる。
「相談が来るのを待つだけではなく」というのもすごい。
やはり、越谷市や関係機関と話し合ってきた中身には、自分が就労したいかどうかわからない人も含めて支援してゆくことが含まれていた。福祉施設利用者の多くが「就労」のイメージをもつための経験がない。そのために、越谷市では障害者就労支援センターを開設する数年前から、障害者地域適応支援事業という名の、福祉施設等の利用者などが職員等の支援を得て、市役所などの公的機関や民間事業所で職場体験・職場実習を行う事業を現在まで実施してきた。この「適応」という表現には、地域・職場の側が障害者に適応するという意味も含まれている。
国が進めてきた支援は介護保険にせよ、障害福祉サービスにせよ、特別支援教育にせよ、支援の対象者を分けて個別に支援し、その支援サービスの担い手を専門職として育成し、福祉については株式会社等の参入を促進し市場化するという手法に基づいている。
介護保険導入時には、デイサービスができたのだから利用しなければっもったいないということで、ご近所の茶飲み友達のつきあいが解体してゆくといったことが、全国あちこちで起った。近年の児童デイサービスの状況も同様で、特別支援学校終業時に児童デイの車がずらりと並び、障害のある子は放課後も地域・家庭から姿を消しつつある。特別支援教育の場合は、障害のある子は別の教育の場へと特別支援学校・特別支援学級へ分け隔ててきた結果、通常学級に残った子ども達の中で新たに目立ち始めた子ども達が「発達障害の疑いのある特別な教育的支援を必要とする子ども達」として、教員と行政によってくくり出されている。
分け隔てて支援することに金をかけてきたことによって、さらに細かく分け続け、さらに金がかかる。
そして、このままでは制度が崩壊するという危機感をあおりながら、国が打ち出したのが「社会保障と税の一体改革」であり、介護保険制度の改正により、特養ホームの新規入所者を原則要介護度3以上に限定し、全国一律の予防給付(訪問介護・通所介護)を市町村が取り組む地域支援事業に移行し多様化させるという方針。この地域支援事業において、既存の介護事業所による既存サービスに加え、NPO、民間企業、住民ボランティア、協同組合等による多様なサービスの提供が可能であるとし、これら総体を「地域包括ケアシステム」、「新しい地域づくり」と称している。
だが、この国の「地域づくり」は、介護や支援の必要な人を対象者とし、そこに関わる専門職といった分け隔てられた構造を崩すことなく、この専門職にNPOや住民ボランティアなどの参入を加えるという手直しに過ぎない。
分けられた秩序の階層をよりきめ細かく多様化するだけ。
そんな現状を踏まえた時、中核地域生活支援センターの10年を知り、障害者就労支援センターの10年を振り返ることの大切さをあらためて考える。(共に働く街を創るつどい2015報告 Ⅰ)
Ⅱ 高齢者、障害者、困窮者が共にいる日常風景を求めて―協同労働、社協、NPO、個人の取組から 〈共に働く街を創るつどい2015〉:報告
<< 作成(山下浩志)日時 : 2015/12/28 21:12 >>
初出:http://yellow-room.at.webry.info/201512/article_3.html
共に働く街を創るつどい2015報告の第2弾!
長生ひなた・渋沢さんの特別報告を受けて、他のパネリストからまずそれぞれの自己紹介と今回のテーマに即しての活動の概要を話していただいた。
トップは、ワーカーズコープ北関東事業本部・さいたま南地域福祉事業所の所長を務める芹沢由和さん。
芹沢さんがワーカーズコープに関わったのは、1970年、視覚障害のシングルマザー・堀木文子さんが,障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止は憲法第25条の生存権の保障および14条の平等保障原則に違憲するとして提訴した堀木訴訟の事務局に関わったことが縁という。堀木訴訟に関わっていた団体の一つが、日雇い労働者の組合・全日自労で、失業対策事業を政府が打ち切ったことに対して闘い、自分たちの受け皿をということで中高年雇用福祉事業団をつくった。芹沢さんはその当時からの生え抜きで、病院の清掃や草刈りなどの仕事を開拓しながら組織して行った。昔埼玉、その後本部、九州、東北とありとあらゆる所で仕事してきた。いま埼玉の現場に戻ってきた。「協同労働の協同組合」の動く歴史資料館のような存在だ。
協同労働という雇用されない形で、人と地域に必要とされる多種多様な仕事をやっている。埼玉県内では30事業所があり、県内の自治体関連の施設運営などをしている。昨年まではアスポートという生活困窮者支援をしていた。いまは生活保護の就労支援や相談、困窮者の自立支援など、県の仕事も含めて11ヶ所。越谷でもやっている。
現在のさいたま南地域福祉事業所は、戸田の「ぽけっと」と「そら」と川口の「たいむ」の3つの現場をもっている。本日は戸田の活動紹介。
ぽけっとは地域の支えあい、ボランティアを組織し援助の仕事やB級野菜の販売。地域支えあい事業、とだ・おーる助っ人事業の概要。登録している会員は120名ぐらい。利用チケットを買ってもらいボランティアが利用権を地域通貨に換えて利用。チケットを800円で買ってもらい、「500オール」、500円。この差益の300円がなければ地域の支えあいは難しいかなと思う。最近では150から160時間ぐらいの助け合い。
そらは学童保育。学童に来る子供と見沼の畑に行って活動。野菜の産直活動で知り合った人が畑の指導。協同労働に賛同してくれた人の畑に行っている。子供たちの中には発達障害の子供もたくさんいる。性同一性障害の子もいる。ジャガイモ等を植えるところからみんなで行なっている。子供たちと一緒に収穫する。畑に子供を連れていくと自然の顔になる。こんなことを社会連帯の取り組みとして、多世代の地域の支えあいみたいな形でやっている。取ったジャガイモをカレーにして食べて、自分たちで植えて育てて食べる。
こんな形で戸田では畑をしながら社会連帯、地域の人たちの力を借りながら地域貢献みたいなことをやっている。
二番手は、社会福祉法人越谷市社会福祉協議会地域福祉課副主査の坂本剛一さん 。16年間続けてきたこの「共に働く街を創るつどい」で社会福祉協議会が登壇するのは初めてのこと。朝日さんが述べていたように、住民参画の福祉推進組織である社会福祉協議会には今後さまざまな面で期待したい。坂本さんは同協議会の事業内容と地域福祉活動計画について紹介された。
支えあい・助け合いではふれあいサロン。公民館などで高齢者、家族を対象に気軽に立ち寄れる場所。社協は地域の人の運営のお手伝い。市内に90カ所ぐらい。推進員はふれあいサロンの担い手。いま五百数十名。
ふらっと蒲生、ふらっと大袋。文字通りフラッと立ち寄れる場所、講座の実施等やりながら。ふらっと大袋は学生ボランティアの受け入れなど。
一人暮らしの高齢者の会食サービス。19のグループがやっている。
次に相談について。福祉の相談が基本で、総合福祉相談ということで心配事。
成年後見センター。判断能力が落ちた方の後見。
さらに地域包括支援センター、貸付事業、コミュニケーション支援事業、介護事業。介護保険事業も行っている。ホームヘルプサービス、障害者や高齢者が対象。
ボランティアについてはボランティアセンターがある。介護支援ボランティア、高齢者に限られているが、高齢者の施設でボランティアすることでスタンプ、それがたまるとお金に換金。後は災害ボランティア。各種ボランティア養成等に取り組んでいる。
つぎに地域福祉活動計画について。越谷市では地域福祉計画を策定しているが、社協では地域福祉活動計画。市との連携が必要で、越谷市の地域福祉計画と連携。基本目標は大きく5つ、一人ひとりが大切にされ、みんなが助け合うまち…平成25年度策定で5カ年。これについては適宜進行管理しているが、推進委員会があり、進捗、今後の方向について意見をいただき、計画の推進を行っている。
ここでコーディネーターの朝日さんより、会場に向って地域福祉活動計画について知っている人に挙手を求めたところ、少数しかいなかった。市の地域福祉計画に対して、社会福祉協議会が作るのが地域福祉活動計画だが、同協議会会員でもある人が多い住民が参画して作る計画なので、より多くの人々の関りを進める必要がある。朝日さんは、またふらっと蒲生では、戸田のぽけっとと同じように商店街と連携した地域支え合い事業を行っていることも付け加えた。
三番手は、NPO法人共に生きる街づくりセンターかがし座理事長の吉田久美子さん。同法人は、福祉制度が乏しい時代に障害者と主婦たちで運営し、公的には障害者雇用促進法の助成のみを受けてやっていたリサイクルショップ「ぶあく」と、やはり当初は障害者と介助者等が会費やカンパを出し合って運営してきた介助システムで現在は総合支援法の居宅介護事業所にもなっているケアシステムわら細工、そして当初は県単独事業の地域デイケア施設で現在は地域活動支援センターになったパタパタの3事業体が合体した事業体。吉田さんはパタパタの施設長でもある。
障害者たちはサービスの対象者として位置づけられるだけでなく、さまざまな形で事業運営を担って働いている。法人の諸事業はもちろん、地域の商店や事業所からチラシの編集・印刷・配布や工場敷地の除草など、委託業務も積極的に開拓し、実施している。
このような先駆的な活動を行っているため、当会として今年度、医療福祉事業団の社会福祉振興助成事業として行っている「障害者と地域住民による身近な仕事起こし」事業においても連携事業所になっていただいている。なお、冒頭の芹沢さんが所属するワーカーズコープ北関東事業本部もやはり連携事業所である。
パネリストとして報告して頂いた吉田さん自身、電動車椅子を使用し一人暮らししている障害者だ。
吉田さんは、今回「幹也くんのお弁当にまつわるお話」と題してプレゼンを行った。吉田さんが施設長を務める地域活動支援センターをしばらく前に利用し始めた幹也くんは、それまで入所施設で暮してきたこともあり、お金の感覚が身についていない。コンビニで弁当を注文し温めてもらった後で、お金が足りないことがわかり、本人も店員も困ってしまう。それで、買物に行く前に地域活動支援センターでお金をチェックしているのだが、それを続けているだけではいつまでもひとりで買物ができないままになる。もう一度幹也くんを信じて買物に行かせたりしながら、どんな形がいいのか探っている状態だという。
吉田さんは、「ひとりで買物」と「支援を受けて買物」という選択肢(支援の方法はさまざまだが)以外に、「地域・職場の関係を調整して買物」という選択肢もあるのではと提起する。これらの選択肢はいずれかひとつということではなく、本人も支援者も三つめの関係の一部と考えられる。
本人も、支援者も、そして地域の他の人々やコンビニ職場で働く人も、出来事を重ねながら、より納得できるつきあい方を身に付けて行くことをめざしたいという。
現実の地域・職場は、グローバリゼーションの波を受け、地域産業の空洞化、競争の激化、非正規労働・ワーキングプアの増加といった状況が深まり、「コンビニ職場で働く人とのつきあい」など甘い考えが成り立つのかとの疑問も生じる。しかし、最近、コンビニ経営者が本部に酷使される状況が白日の下にさらされ、「コンビニ。オーナー家族も労働者」と都労委で認められる事態になっている。それぞれしんどい状況にあるからこそ、すぐには難しくとも、つきあってゆける土壌も備わってきているともいえる。ちなみに、当会の障害者達による飛び込み訪問「仕事発見ミッション」で、かなり多くのコンビニが超多忙の中で職場体験を受けいれて下さっている。
吉田さんは、ひとりひとりの障害者の暮らし方・働き方が周りとぶつかり、互いに迷いながら歩み寄ってゆくことで、「障害者福祉」であるとか「〇〇福祉」とか「〇〇就労」とかの既成の枠組みが拡がってゆくことが誰にとっても生きやすい地域につながると思うと語った。
しんがりは「障害者就労支援センター職員からケアマネとして働いて思うこと」と題して阿久津和子さん。阿久津さんはまず、この会場に職場参加ビューロー世一緒の障害者スタッフや就労支援センターで支援した障害者が多数参加していることに感謝する、就労相談の事業はお互いの相互作用なので、阿久津さん自身も障害者から気づかされたり、その変化で達成感を得たりしたと述べた。
阿久津さんは施設に通所する重度重複障害者の親で、障害者自立支援法ができて施設報酬が日割り計算になった時、親たちもヘルパー資格を取って地域生活を支えようという話が出て資格を取ったという。その後社会福祉士やケアマネの資格も。
昨年度1年間は就労支援センターで働いたが、特に高齢者施設の職場開拓・就労支援に傾注した。障害のある人の働きやすい時間とは、障害のある子どもの親にとっても働きやすい時間だったと阿久津さんは言う。それで、高齢者施設に一緒に同行して、清掃や洗物、厨房補助、館内整理の補助などを一緒にやって、充実感をもって仕事できたのがうれしかったという。それだけに、突然の受託終了はショックだったとも。
阿久津さんの現在の職場は、ワーカーズコレクティブのNPO法人で高齢者のデイサービスもやっている。担当している利用者を通して思うことは、独居の高齢者世帯が500万、夫婦世帯が500万という時代となり、制度利用が進んでいる半面、自然発生的なひなたぼっこ、井戸端会議のような場がなくなっていること。それは息子を養護学校に通わせた時に地域とつながりが断たれたと感じたことと共通している。地域の中でその人と他の人々が出会っていることで、迷子になってもわかりやすい。制度だけではなく、地域の力や昔からの関りがあれば今の生活をそのまま継続できると感じている。
4名の方々のうち、芹沢さんは協同労働の協同組合を進める全国組織で、坂本さんは住民参画の地域福祉を進める最大の全国組織。それに対し、吉田さんは共に生きる地域をめざす小さなNPO法人で、阿久津さんは個人。各々の組織実態には甚だしいちがいがあるが、4名の報告を並べてみると、阿久津さんの最後の言葉、「制度だけではなく、地域の力や昔からの関りがあれば今の生活をそのまま継続できると感じている。」というところが、共通項になろうとしている感触を得た。
その感触を頼りにしつつ、どのように先へ進めてゆけるのか。
「地域のつながり」が、分けられた秩序の階層をよりきめ細かく多様化するだけにならない歯止めは、どのように設定できるのか。
協同労働の協同組合という枠組み、そして地域福祉活動計画の枠組みにおいて、事業や制度をこえた関係をどのように担保したらよいのか。
中核地域生活支援センター・長生ひなたの経験に学びつつ、討論に入って行く。
Ⅲ 「あたりまえ」、「地域」、「職場参加」、「権限」をめぐって 〈共に働く街を創るつどい2015〉:報告
<< 作成日時 (山下浩志): 2016/01/07 20:14 >>
初出:http://yellow-room.at.webry.info/201601/article_3.html
共に働く街を創るつどい2015報告、いよいよディスカッションへ!
コーディネーターの朝日さんが、各々が他のパネリストの報告を聞いてどう思ったか、率直な感想をお願いしたいと述べた。
吉田さんの「幹也くんのお弁当」について、4人から感想が出された。
渋沢さんからは、話は面白かったが、お金をもらってから温めるのは、それはそれで感じ悪いかなと思うと。
朝日さんからも、障害の有無に関わらず、お金を払って食べるのは当たり前で、今日たまたまお金が無かったらそれはそれで食べてもらって、明日お金を持って来て下さいという社会がいいなと思ったと。
芹沢さんからは、助っ人隊のコーディネーターの女性がスーパーに行ったら、おばあちゃんが買ったお弁当がみつからないから一緒に探してと頼まれ、一緒にグルグル回って、スーパーの電子レンジの中に置き忘れてあるのをみつけた、その女性が地域でたこ焼き屋をずっとやっていたのでおばあちゃんが顔を覚えていた、顔と顔がつながっていることの大切さを感じたというエピソードが語られた。
坂本さんも、地域の中の人と人のつながりを大切にしていかなくてはいけないと思うと述べた。
また、渋沢さんの報告にあった深夜帯の電話相談について、渋沢さんも含めて4人から話された。
吉田さんからは、同じようなことがあり、初めのうちはひんぱんに電話があるが、日中も含めたやりとりの家庭でだんだん落ち着いて来るという経過はよくわかると。また、通所者の中に、家に帰った後夜どこかへ行ってしまう人がいて、それは6畳一間に兄と母と3人でいるという住環境があり、本人からの何かの発信なんだろうと受け止めているとの話も。
阿久津さんからは、長生ひなたのような24時間体制があれば、障害者・高齢者問わずどんなに心強いか、行政を非難するわけではないが、この地域にもそういうところがあればという感想。
渋沢さんからは、阿久津さんの感想も受け、24時間の仕事をするようになってからわかったことだが、行政の人は夜も休日も何かあったら対応してくれること、警察沙汰になることも悪いことばかりではなく地域の生活安全課はほんとうによくわかっているとの補足があった。
朝日さんからは、渋沢さんの指摘に関連して、工夫すれば対応できるものがいろいろあるので、それをどう仕組みにしてゆくかが課題かもとコメント。
つぎに朝日さんから、各々が「地域」のイメージをどんな範囲、どんな意味で使っているかお聞きしたいと投げかけた。
阿久津さんは、入所施設は地域とは言えないこと、地域とは家族・隣近所、買物や床屋はじめいろいろな人と関りを持っていけるところと述べた。
坂本さんは、障害者や高齢者などさまざまな人々が一緒に暮していければそれが地域だと思うと。
芹沢さんは、物理的な距離感、精神的な距離感、両方が必要で、ワーカーズは人と地域に必要なことを仕事として起こすという発想を持っており、生活空間・生活を一緒にできる仲間がいる範囲というイメージだと言う。
渋沢さんは、1万人規模の茂原市では年間に生まれる子供が100人で、保健師が誰も彼も知っているという意味でいいのだが、自治体としてもつかどうかわからないので、中核センターの圏域である長生郡15万人ならばショッピングセンターも一緒で、困ったとき風のうわさが耳に入って来るので、具体的な地域というイメージだと語る。
吉田さんは、日中活動の場の周りも地域ではあるが、本来の地域は各々が住んでいる所だと考えているということ、その居住地域へのアピールはそこに住むご近所に声をかけたり販売活動を一緒にやるというのが理想だと。
それらを踏まえて、朝日さんから、これが地域ですよとホンワカしたイメージを押し付けるのはちょっと違う、生活実感を共有できるところが出発点という感想が出された。
つづいて、朝日さんが、当会が進めてきた「職場参加」という活動について、コンパクトな説明を行った。
職場参加は、障害によって職場から排除されるのでなく、そこにいるべき存在として職場にいる状況をきりひらいてゆくこと。それを実現するために、もちろん雇用されて就職したい人には、かって受託していた就労支援センターがあったし、雇用率には達しない超短時間就労を通して働く手がかりを得てゆくことも大事なこととして追求してきたこと、さらに、仕事発見ミッションと称し、障害者が働くというイメージがなかった店などに、障害者が直接訪ねて行って仕事を見せてもらい、風穴を開けてゆくという活動もしてきたこと。そうした複合的な取り組みを通して成果を上げてきたが、半面ではそれがまだまだ障害者に限られ、他の就労困難者とのつながりの面では限界があったこともたしかであること。
以上の説明の後、パネリストからの「職場参加」についてのコメントを求めた。
阿久津さんからは、会場に来ている世一緒の障害者スタッフがペアになって高齢者のデイサービスを飛び込み訪問した結果、そこの施設長から世一緒に電話があり、障害者も働いた方がいいと言われ、大きな風呂を洗う実習をさせてもらい、障害者就労にもつながった、それからあちこちの高齢者施設にアウトリーチで行くことによってとても小さなヘルパー事業所でも障害者が働ける職場があることがわかった、支援員もやはり外に出ていかなければいけないと語られた。
吉田さんからは、地域活動支援センターで近所の塾、工務店、議員等のチラシのポスティング等を請負い、他団体と一緒にやることで、障害者・職員も含めて互いに交流や情報交換ができたり、商店会からは福引のポスター作成の依頼があるなど障害分野だけでなく異業種の人々とのつながりをひろげる上で、仕事が生きている事が報告された。
芹沢さんからは、「職場参加」とはいままでの枠組みをわれわれがどうほぐすかということではないか、見沼の畑には学童の子ども達だけでなく、川口の事業所が行っている生活困窮者の相談支援を利用している病気や内部障害の人達も一緒に畑に行っており、畑に行っている間は元気になる、いま畑の指導をしているMさんから大根やねぎの販売をしてお金にしないかという提案を受け話し合っているが、「半就労・半x」みたいな形でできることを組み合わせて探っていく、そういうことが出来る関係が協同関係ではないかと語られた。
渋沢さんからは、一般就労は就業・生活支援センターと数年前から一緒に考えている、自立相談や若者、定時制の生徒など障害がないかボーダーの人にとって働く上で何が必要か、それは個別に違う、一般企業で障害者が集まって働く場に関して内容的には批判的な所があるがけっこういい給料が得られ、それがモチベーションになる人もいる、また商工会の人と障害者の仕事について話すとこちらも大変だと言われる、なんでもいいから参加させてというのではなく、お互いにマッチングしてゆくように丁寧にやっていかないとと語られた。
坂本さんからは、ともすれば支援者側の理屈に基づいて支援してしまう傾向があるが、就労支援センターの職員に聞いたたところ、本人の意思を尊重した伴走型の支援をしてゆくんだと言っていたと述べられた。
朝日さんは、職場参加という概念につながる活動としては中学生のスリーデイズ・チャレンジがあると説明した上で、それが障害があったら参加できないとか制度ごとに分けてゆくのでなく、障害者でも高齢者でも外国人でも誰もがということが大事であること、そして一人一人に沿ってということが大事であるとまとめた。
最後に、朝日さんから、では具体的に何をすべきかを話し合いたいと提起された。
会場から2人が発言。
春日部の大坂さんからは、渋沢さんの特別報告にあった、権限をもっていないから関係性でという関わり方に共感を抱いたので、詳しく聞きたいと述べられた。
就労支援センター前所長の沖山さんから、それに関連して、権限があるところが厄介な仕事をしていて業務が進まないという感想をもっているかとの問いかけ。
渋沢さんからは、4月から生活困窮の自立相談の事業をやっているが、これは市がやっている住宅扶助・家賃助成の仕組みや社協がやっている貸付について、自立相談センターのプランが必要で、その意味で権限があるためその目的で来る人が多く、逆にそれらを利用する目的以外だとうちの対象者ではないということになりやすい、それと比べると中核センターは権限がないからこそその人にどうやって受け入れてもらうかという手順を踏まざるを得ないところが横並びで心地よかったりすると語られた。
芹沢さんからは、すけっと隊には地域包括支援センターからオーバープランでもう介護保険が使えないのでお願いしたいと依頼があることが多いが、そういうケースに限って虐待場面に遭遇することも少なくない、すけっと隊のように権限がないからこそ見えることがあると語られた。
朝日さんはここで2人のコメンテーターからの発言を求めた。
榊 勝彦さん(越谷市福祉推進課調整幹)は、あらためて地域福祉は街づくりという認識をした、本来私たちは地域が作る風土や文化に支えられながら自我を形成しやすらぎを得ている、その中で私たちのところでは高齢者支援ということで、サービスを提供する側も受ける側も生活実感を共有する空間で行うシステムを有償で計画しており、これはさまざまな人たちの就労機会の確保にもつながる、そうした仕組みを一日も早く作って行かなければと述べた。
角屋 亮さん(越谷市障害福祉課副課長)は、国の施策で障害者雇用、特例子会社、優先調達法、就労移行支援事業所や就労継続支援事業所などが進められてきたが、それらにはまらない人、一般就労をめざしつつなかなか一般就労につながらない人はどうするか、とりわけ越谷市では就労支援センターでハローワークと連携した一般就労支援と地域適応支援(職場体験)の事業を展開しているが、一般就労と職場体験の中間を持ち合わせていない、超短時間就労といった働き方や有償ボランティアで働く体験などのしかけをみなさんと一緒に市の事業として展開できないか、ずっと悶々としているが、今日の集会に出てあらためてその気持ちを強くしたと語った。
以上を受けてパネリストから一言ずつ。
阿久津さんは、制度だけではこぼれる、点と点だけではなく面にしなくてはと。
吉田さんは、些細な出来事でも自分たちで抱え込むのではなく、発信してゆくことでつながりを作って行けるんだと感じたと。
坂本さんは、あらためて社協職員として人と人のつながりを大事にして行くことを感じたし、これからも地域の人達の力が大事になるのでボランティアセンター等の活用をと。
芹沢さんは、ぽけっとでは、昔ながらに七輪を囲みながらお茶でも飲もうといった形で地域のつながりをと話していると。
渋沢さんは、中核センターが出来た時、社協の事業が削られた時でもあり、なんだおまえらという感じで見られた、事業が出来たからといって地域が変るわけではなく、良質な活動を続けてゆくことが大事、また福祉だけでやってゆくのは難しい、地域の主流の層の人達はマイナーな活動に親和していけない、違う存在と認識した上で、まずはつながってゆく、そういうイメージで仕事をしていると語った。
最後に朝日さんから、今日は素晴らしいパネリストの方々に囲まれて時間を過ごせた、地域包括支援だということ、でも100%そろえてゆくことは難しい、まずできることから、そしてその人らしい生活の実現に向けてとまとめ、ディスカッションを終えた。